meiguiyouxiangのひとり旅

会社員が、週末+少しの年休で旅行しています。たいていひとり旅です。

海外で着物を着る

いつか海外で着物を着たいな、と思っていました。

Instagramでも #着物で海外  #海外で着物 というハッシュタグがあって、和装のみなさんが世界中を行脚しているのが素敵。

ただ、「着物で海外」と「海外で着物」には大きな違いがあって、前者はなかなかハードルが高いかも。

なんだかんだ言って、やはり着物はしんどいです。

まず飛行機に長時間乗るのは、私にはきっと無理。

あと万一のとき、安全面でどうなの?っていうのもあります。*1

旅行だったら、現地で歩き回るのもしんどいし。着物が、っていうより履物が大変。

かといって、ある特別な一日のために、着物一式を持って行くのも、数日の旅行だとなかなか難しい。

しかしついに、「海外で着物」のチャンスが到来しました。

その顛末を書いてみます。*2

 

 

 

 

着物でスカラ座

2018年10月、イタリアに3週間滞在する機会があり、ミラノのスカラ座にオペラかバレエを観に行くことに。

それまでにも2回、イタリアでオペラを見たことがありました。

1回目はスカラ座の桟敷席だったため普段着で。

2回目はベネツィアフェニーチェ劇場のまあ普通の席で、暑かったこともあり適当なワンピースで行きましたが、やはりみなさんドレスアップされてました。

今回は奮発してスカラ座のボックス席を取ったので、これはまさしく着物にうってつけ!

 

ちなみに、チケットは事前に日本からスカラ座公式ウェブサイトにて取りましたが、

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こんな風に選択した席からのビューを確認しながら購入できてめちゃ便利。

この席に着物姿の自分が座るって、ブラビッシーモ!

 

荷作り

着物と洋服の一番の違いは、平面か立体かです。

着物は洋服よりもはるかに多くの生地を使うし、着付けるための備品も多いけど、すべて平らに畳めるので、スーツケースには収まりやすい。

アパレル界の構造の問題点を描いた映画『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』上映会後のディスカッションにて、会場が京都市内だったこともあってか、「着物こそサスティナブルな衣服*3」という意見が出たのですが、「いつどこで着たらいいかわからない」みたいな質問に対して、「まずは旅行に着て行くのがオススメ。目立つし、やたら人が話しかけてきて友達ができるし、何より荷物が少なくなる」って言ってました。

 

実際にパッキングに活躍したのがこれ。

携帯用たとう紙

www.amazon.co.jp

 

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畳んだ状態で固定できて、スーツケースの中でグチャグチャになることもなし。ジャケット1着よりずっとコンパクトです。

念のため、着物を着ない方のために言うと、着物は畳み方が決まっていて、その折り目が付いた状態で着用します。

唯一、立体になっている衿も。

これが洋服とは根本的に違うところで、とにかく持ち運びや収納に適しています。

 

ただ問題は、履物。

草履はやっぱり容量が大きいです。靴よりもずっと*4

持って行けないことはなかったけど、3週間の内のたった数時間のためにあの箱を…とか、そもそも草履でミラノの石畳を歩けるんだろうか…とか。

個人的には、着物に洋服のアイテムをコーディネイトするのはあまり好きではないのですが、ここは着回しの効くパンプスで。

 

着付け

もちろん自分で着付けができることが前提。もしくは着付けてくれる人と一緒に行くか。

私はいつもyoutubeを参考に完全自己流で着ているのですが、一番難しかったのは、ホテルの部屋の全身鏡と、着付け用具を置けるテーブルがやけに離れていたのと、位置関係が自宅と左右逆だったこと。

でも普段着ない人でも、二部式とか、カシュクールワンピースみたいな作りになってるやつとか、作り帯なんかもあるので、とにかく海外で着物アイコンを体現することが目的なら、なんとでもなるかも。

正直、左右合わせを間違ってるとか、着崩れ過ぎて脱げちゃうとかでさえなければ、多少変になっていても、外国の人にはわからないし…

海外で着物警察に見つかる確率はかなり低いのできっと大丈夫!

 

着物への反応

日本で着物を着ていても、あまり人の視線を感じることはありません。海外の方からも。豪華な振袖なんかを着て歩いたら、また違うのかもしれないけど。

海外でも、自国民も民族衣装を着ている国なら溶け込みそうだし、モードにこだわりのある国なら良い意味で目立ちそう。

ではミラノでは?

私のイタリアへの印象は、とにかく保守的。

そしてイタリアンファッションはレディースよりもメンズだなあという気がしています。

イタリアはやっぱり技巧の国。

さらに感じるのは、イタリアで日常、エスニックなものを目にすることがあまりありません。

沿岸部や南部で、多少のイスラム風なものを感じることがあるようなないような…

そんな中で着物って、どんな感じになるのかな?

そして日本人アピールをしながら歩くって?*5

 

夕刻、チェントラーレ近くのホテルからメトロポリターナでスカラ座へ。

ドゥオモを通る路線なので、観光客で混んでいて、正直、悪目立ちしている感があって、ショールで隠して小さくなる感じで乗ってました。

「あ、よそ者だ」的な視線。

ミラノに普通に暮らしてるアジア人はたくさんいると思うけど、民族衣装着てるとよそ者感が増しますね。

地上に上がると残念ながら雨。

雨のなか歩いてスカラ座に到着。

前回は天井桟敷だったので、横の通用口みたいなところから入ったのですが、今回はもちろん正面入り口から。

ロビーはガチのイブニングドレスやタキシード姿の方から、割と軽めの服装の方まで様々でした。

私の装いはと言うと、アンティークのマジョリカお召しを対丈で。

装飾的な半幅帯をカラテア結び。

ビビットカラーのバレーシューズ。

着物警察に見つかったら眉をひそめられそうだけど、イタリア人にはゴージャスに見えたみたい。

何人かの人が、「ステキね」と話しかけてくれて、メトロポリターナで「民族衣装」だったものが、スカラ座に一歩足を踏み入れた途端「キモノ」になったことを感じました。

ひとりのおじさんからは写真を撮らせてほしいと言われ、正面と、「後ろも」と帯を撮ってました。

でもよく考えると画像はマズイですね…

もし着物に詳しい人の目に触れて、「これは…オカシイわね」なんて言われたりしたら…

 

一番嬉しかったのは、綺麗なスーツを着た年配のシニョーラが、にっこり笑って「ジャポネーゼ?」と話しかけてこられたこと。

一般的にイタリア人は陽気でフレンドリー、みたいなイメージがあるけど、私はあまりそうとは思いません。

なるほど男性はサービス精神旺盛で、気軽に話しかけてくるけど、女性それも年配の方が、見知らぬ外国人に自分から話しかけてくるってことは、あまり経験がない。せいぜい、ふと目が合ったときに微笑みかけてくれるくらい。

イタリア人はやっぱり保守的で、「女性(娘、妻、毋)のあり方」とか、「女性は一歩下がるべき」といったものがはっきりとあるような気がする。

それでも私の着物に反応して、声をかけてくれた。これが着物の力なんだと思いました。

 

これがあなたの国の衣装なのね

席に案内され、個室に入る。一番乗りでした。

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後から若いカップルが入ってきて、シニョリーナが私を見て開口一番

「素敵!これがあなたの国の衣装なのね!」

彼女自身、バレエをやっているそうで、

「いつもは天井桟敷で見ているけど、今日は時別な日なので、ここに来たのよ!

彼は不満みたいだけど!」

結局カップルと私の3人で、私はお邪魔なのかも…と思わなくもなかったけど、彼はあまり興味なさそうにずっと後ろでスマホをいじっていて、まるで私と彼女の2人で見に来たかのようでした。

 

ちなみにこれが、スカラ座での唯一の画像。

ひとり旅の宿命。

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ところで、席からアリーナ席を眺めていて、イブニングドレスの上から羽織をガウン風にさらっと着ている女性を見つけました。

世界中のレストランで独自の発展をとげ、もはやご飯の上になんでもかんでも乗せたり巻いたり1〜2口サイズに小さくまとめているものの総称が「sushi」なんだろうなと思うことがありますが、kimonoもそういった展開が始まっている気配を感じました。

伝統は守らなきゃいけない。

でも生きて残るためには、形を変えていかなくてはいけないときもある。

「正しい」とされている形は、志の高い人や、博物館の中に残ればいい。

むしろ博物館に保存された時点で、それは死んだのだと思います。

 

着物で全力疾走

この日の演目「マノン」は素晴らしく、カーテンコールが続いて、スカラ座を出たのはすでに12時近く。

なんと…豪雨。

劇場前はミラネーゼの迎えのセレブな車で大渋滞で、庶民の流れに乗って、ガッレリアを通ってドゥオモ前のタクシー乗り場へ。

なんと…ここも長蛇の列。

豪雨の中、ここに並ぶ気力が保てなかったので、仕方なく帰りもメトロポリターナで。

幸い私はそれまで何も感じたことはなかったけど、やはり一般的に大きな駅周辺は治安が良くないと言われるので、最寄駅のチェントラーレに着いて、地上に上がってから、ホテルまでの5分くらいの道のりを

全速力で走る!

豪雨の中!

着物姿で!

日本でもなかなか見ることのない、謎の光景だったことでしょう。*6

 

*1:普段、着物で出かけるときも、もし今日大地震が起きたら逃げられるのか? 助かっても救援物資が届くまでの間、避難所でこの格好で過ごせるのか? など考えてしまう

*2:先日の米国下着ブランドのKIMONO登録商標騒動で思うところがあり、書いてみました

*3:洋服ほど流行り廃りが無い、サイズが変わってもなんとでもなる、仕立て直しもできる、今ならどこの家にも余っていて無料で手に入る

*4:愛用のカレンブロッソは特に…。

*5:以前ミラノのトラムの中で、おじいちゃんに「私はかつて日本人と一緒に捕虜として拘留されていたことがある」と話しかけられ、片言の日本語を聞かせてもらったことがあり、同盟国を初めて意識した思い出があります

*6:だって、万一何か事件に巻き込まれたりしたら、深夜・女一人・治安の悪い場所で・それも着物姿で!!なんて一体どんなワイドショーネタよ!?て感じですからね。